サスペンス映画は、いつの時代もドキドキハラハラさせてくれます。 主人公と一緒になって怖がったり、犯人探しを楽しんだり。 今回はわたくしが独断と偏見でサスペンス映画の名作と思っている作品を選んでみました。
『ミュートウィットネス』
1996年、アンソニー・ウォラー監督作品。
【キャスト】
マリナ・スディナ、フェイ・リプリー、オレグ・ヤンコフスキー他
【あらすじ】
ビリーは映画の特殊効果やメイクアップ・アーティストを仕事にしていて、姉の彼氏のアンディが監督を務めるB級映画の撮影のためにモスクワに来ていた。
耳は聞こえるが口が利けないビリーは、周りの人と手話やメモ、表情などでコミュニケーションを取っていた。
撮影後、忘れ物に気付いたビリーは姉達と別れて撮影所の中に戻った。しかし撮影所の管理人がそれに気付かずに鍵を閉めて帰ってしまい、ビリーは閉じ込められてしまった。
出口を探していると、本物の殺人をフィルムに収める“スナッフ映画”の撮影現場に出くわしてしまい、ビリーは逃げる。
犯人に捕まる寸手のところで姉のカレンが駆けつけて事なきを得、警察を呼ぶが、犯人があれはフィルムテストの撮影だったと主張し、証拠も見つからなかったのでビリーの言うことは警察には信じてもらえなかった。
その後、“スナッフ映画”のことを調べているという刑事のラーセンに会い、ビリーの協力が必要だと言われたが、彼は犯罪組織のボス「死神」と内通していた。果たしてラーセンを信じて良いのか。ビリーは彼に協力するのか。
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主演のマリナのことを調べようとしたのですが、ロシアの人気女優としか情報がありませんでした。と言うことは、彼女は本当は口が利ける方なのでしょうか。だとするとあの演技は素晴らしい。
殺人現場を目撃してビリーが逃げ回るところのシーンは本当に面白い!!
見つかりそうで見つからない。捕まりそうで捕まらない。
来た来たっ!逃げてーっ!もうハラハラして自分が必死になり過ぎて笑えます。一番の見所ではないでしょうか。
もしビリーが声を出せたらきっとエレベーターシャフトでの「首」発見の時には叫びまくって見つかっていたかもしれません。この映画ではビリーが口を利けないという設定がうまく効いています。
冗談が全く通じない感じのいかつい顔の男は笑顔でも目が笑っていません。怖く見えるけれど根はイイ奴……ではありませんで、本当に怖い殺人犯でした。
でもわたくし、彼は嫌いなタイプではないですけれど。
しっかり者の姉のカレンとちょっとおっちょこちょいのアンディのカップルはベストカップル賞をあげたいくらい和ませてくれます。
彼らがほどよい笑いを散りばめてくれますが、それが平然と殺人を犯してしらばっくれる恐ろしい犯人とのコントラストをより強調させてくれます。
脇役で何とアレック・ギネスのような大物も出てきてびっくりしますが、ラストもまたびっくりで終わります。
『危険な情事』
1987年、エイドリアン・ライン監督作品。
【キャスト】
マイケル・ダグラス、グレン・クローズ、アン・アーチャー他
【あらすじ】
弁護士のダンは、妻と娘と3人で幸せな生活を送っていた。
ある日、出版記念パーティに出席し、編集者のアレックスと出会い、妻のベスと娘のエレンが留守の日、ダンはアレックスと一夜の情事を交わした。
ダンは遊びだったが、アレックスは本気でダンのことを思うようになった。そして再び肉体関係を持ったダンとアレックスだったが、ダンが帰ろうとするとアレックスは手首を切って引き止めた。
遊びだったとはっきり打ち明けて縁を切りたいと話そうとするダンだったが、アレックスが妊娠していることを知らされる。
それからというものアレックスはダンの一家につきまとって嫌がらせをするようになり、ついにはベスとエレンにまで危険が迫ってきたのだった。
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ダンが悪い。以上!
浮気両成敗ですが、ダンは幸せな家庭を持ち、その上まだ他の女への欲望を抑えきれないのかと。あんたは自業自得で済むけれど家族には大迷惑です。
世の浮気中の方々にお勧めしたい作品ですね。
ベスとエレンが本当に可哀想です。エレンなんて、うさちゃんのことがきっとトラウマになるでしょうし。
アレックスは狂気的ですが、その気持ちはわからないでもありません。でも妻子ある人と最初からわかっていて近付くという計画的な犯行とも言えます。
精神的に元からちょっとヤバい人だと思うので、こういう修羅場ももしかすると自分から望んでいた可能性がなきにしもあらずではないでしょうか。
自分でも気付かぬ内に、悲劇のヒロインになりたがっていたのかもしれません。そう考えると寒気がします。
終盤に差し掛かると、サスペンスと言うかホラー映画と言っても過言ではないくらいの怖さになってきます。
そしてエレン役の同名エレンは、ものすごくキュートで可愛いのでこれからたくさん映画などに出るのかなと思ったら他の作品には出ていないようですね。情報が全くありませんでした。役者さん、やめちゃったんですかね?残念。
『殺しのドレス』
1980年、ブライアン・デ・パルマ監督作品。
【キャスト】
マイケル・ケイン、ナンシー・アレン、アンジー・ディッキンソン他
【あらすじ】
夫との性生活に満足できずに、クリニックへ相談に行き、精神分析医のアドバイスをもらうケイトだったがそれでも彼女の気持ちは晴れなかった。
美術館へ向かったケイトはある男と出会い、タクシーの中で関係を持った。
そのまま男の部屋について行ったが、部屋の中にあった書類に男が性病持ちだということが記されており、愕然とし、ケイトは逃げるようにして部屋を出た。
しかし指輪を部屋に置き忘れたことに気付き、ケイトはエレベーターに乗って部屋に戻ろうとした。そしてエレベーターの扉が開いた瞬間、彼女は何者かに剃刀で切り刻まれ、殺害されてしまった。
一番初めに彼女の死体を発見した娼婦のリズは、犯人の新しいターゲットにされて命を狙われるが、ケイトの息子のピーターと共に事件の謎を追い始めた。
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デパルマは、ヒッチコックを意識してこの映画を作ったらしいですが、確かにそんな雰囲気が見受けられます。
冒頭の殺害シーンなんてまさに「サイコ」をリスペクトしているのだなと丸分かりです。
でも、予告編などでも一番印象に残るアンジー・ディッキンソンの衝撃惨殺シーンが冒頭だったのは意外でした。彼女はもっと主役だと思っていました。
ホラー映画では良くある、不貞を働くと高い確率で死ぬというアレですね。
ナンシー・アレンは、こういうと何ですが、娼婦役が似合います。嫌味のない明るいセクシーさん。「ロボコップ」の彼女、好きでした。
ケイトの息子役のキース・ゴードンはその後「クリスティーン」というホラー映画で主演しており、わたくし的にはそちらの印象の方が強いです。
この映画、ラストもヒッチコックヒッチコックしていますが、デパルマ監督なりのこだわりなのでしょうね。
お気に入りの映画の一つです。
『夕暮れにベルが鳴る』
1981年、フレッド・ウォルトン監督作品。
【キャスト】
キャロル・ケイン、チャールズ・ダーニング、コリーン・デューハースト他
【あらすじ】
ジルはあるお屋敷でベビーシッターのアルバイトをしていた。
子供達を2階の子供部屋で寝かせ、彼女はリビングで留守番を預かっていた。
時間が経ち、ふいに電話のベルが鳴った。しかし受話器をとっても相手は無言だった。何度も同じような電話がかかってきたが、その何度目かに「子供の様子を見たか」 と言う男の声が聞こえた。
ジルは警察に知らせ、一応逆探知をしてもらった。するとその電話はなんと家の中からかかっていると判明。
犯人のダンカンは捕まり、精神異常者と判断されて精神病院へ収容されたが、7年後、病院から脱走した。
ジルは結婚して子供2人をもうけていた。
ある日、彼女が共同募金の責任者になるということで、写真つきの記事が新聞に載った。そしてベビーシッターに子供を預けて出かけた時、彼女の元に電話が入った。
「子供の様子は見たか」
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都市伝説を元にしたといわれている映画です。
姿は見えないのに実は近くに犯人がいたというシチュエーションはとても怖いです。
しかも解決したと安心していたら、忘れた頃に再び同じ犯人に狙われるのですからたまったものじゃあありません。
しかし刑事役でお馴染みの太っちょさん、チャールズが頼りになる警官(後は私立探偵になっている)を演じています。
この作品には「新・夕暮れにベルが鳴る」という続編もあり、同じ都市伝説を題材とした類似映画「夕闇にベルが鳴る」というのもあります。
多分、全て見たはずなのですがなんとなく他の作品の内容は忘れてしまったような……。やはりこのシンプルな本家の映画が一番印象に残っています。
『暗闇にベルが鳴る』
1975年、ロバート・クラーク監督作品。
【キャスト】
オリヴィア・ハッセー、ケア・ダレー、マーゴット・キダー他
【あらすじ】
音楽学校の寄宿舎で暮らすジェス。
その寄宿舎には以前から妙ないたずら電話が何度もかかってきていた。
クリスマスイブ、寄宿舎ではパーティが開かれており、恋人のピーターと喧嘩して帰ってきたジェスも途中から参加した。
パーティの最中、またあのいたずら電話がかかってきたがバーブが軽くあしらうと電話は切れた。
その後、部屋に戻ったクレアが何者かに襲われて行方不明になってしまった。
クレアの他にも少女が行方不明になる事件があり、今までいたずら電話のことを相談しても相手にしてくれなかった警察もやっと動き出してくれた。
ジェスはピーターとの間に子供ができたが、彼女は産むつもりはなく、中絶するつもりだった。しかしピーターはそれを怒って「きっと後悔するよ」 と言って部屋を出て行ってしまった。
その後、寄宿舎内に再びいたずら電話がかかってきてジェスが出ると相手は「ベベーを殺してはいけない」と、ピーターの言っていた言葉と同じ内容の事を言ってきた。
なんとか電話を引き伸ばして逆探知に成功したが、そこで恐ろしい事実がわかったのだった。
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殺されてしまったクレアが、一生懸命息をしようとして口にビニールが吸い込まれているのがリアルっぽい。
いたずら電話の喋り方も、異常者そのものでうめいたり叫んだりけたたましく笑ったり、ヒステリックに高い声になったりして本当に怖い。この役者さん、上手です!ヘムタイ役が。
バーブがいたずら電話の相手に対して罵ると、色々言った後最後に「殺してやる」と言いますが、今まで興奮して喋っていたのにそのセリフだけはスーッと冷めたように素の声になるんです。そこがまたすごく嫌な感じ。
今はもう携帯電話が普及してしまって、この手の内容の映画はもう作られることはないんですね、きっと。
随分昔の話で、多分いつも言われていることでしょうが「ロミオとジュリエット」の初々しく愛らしかったオリビア・ハッセーが美しく成長しております。
「スーパーマン」のロイス・レイン役のマーゴット・キダーもいますね。彼女はそんなに変わっていないですかね。
あの頃の逆探知って大変だったんですね。一生懸命探して間に合わなかった時には、あー!と残念な気持ちになりますし、やっと間に合った時にはホッとしました。
そしてジェスが逆探知の結果を警察から聞いた時にはゾッとしました。
この映画は固定電話の時代のたまものです。
『テナント/恐怖を借りた男』
1976年、ロマン・ポランスキー監督作品。
【キャスト】
ロマン・ポランスキー、イザベル・アジャーニ、メルヴィン・ダグラス他
【あらすじ】
アパートの空き室を見つけたトレルコフスキーは、そこに住んでいる女性が窓から飛び降りて自殺を図ったことを聞いた。
彼はまだ病院に入院しているその女性、シモーヌのところへお見舞いに行った。
その後、少ししてシモーヌは亡くなり、トレルコフスキーはそのアパートの部屋に住むことになった。その部屋はまだシモーヌが暮らしていた時と同じ状態で、彼女の生活の痕跡がそのまま残っていた。
同じアパートの住人達にはそれぞれ一癖あり、ちょっとした物音でも苦情が来たりしてトレルコフスキーは神経質になっていった。
そしてその内彼は、周囲の人間が自分を監視していたり敵意を持っているように感じ、シモーヌが死んだのも彼らのせいではないかという妄想を抱き始める。
彼は徐々に狂気にさいなまれていき、みんなは自分をシモーヌと同じようにしたいのではないかと思い込み、女装し、嗜好を変えていく。
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ポランスキーの何気ない表情が孤独を感じさせます。
妄想を膨らませて人間不信に陥っていく様は気の毒で仕方ありません。
周りが変わった人間ばかりで、自分が悪く思われているのではないかと言う想像は誰もが持つ可能性があります。
トレルコフスキーは、シモーヌが亡くなれば部屋を借りれるということで、それを待つんですね。ここはちょっと笑うところなのでしょうか。
ポランスキー監督も私生活では色々と自分のスキャンダラスなことや奥さんのシャロン・テート事件のことなどで孤独に陥っていた時期もあると言われています。
この映画には彼の実生活での心も反映されているのかもしれません。
結局、トレルコフスキーは本当に自分一人が勝手におかしくなっていたのでしょうか。
それともこのアパートの連中にはやはりそういう意図があってこの部屋に住む人間を攻撃しているのでしょうか。もしトレルコフスキーの後に誰かが住んでまた同じループ状態になったとしたら……。
『アザーズ』
2001年、アレハンドロ・アメナーバル監督作品。
【キャスト】
ニコール・キッドマン、フィオヌラ・フラナガン、クリストファー・エクルストン他
【あらすじ】
1945年、イギリス。
グレースと2人の子供が大きくて古い屋敷に住んでいた。子供達は2人とも光アレルギーを持ち、屋敷の中の子供達が通るところは全てカーテンが引かれていた。
ある日から、娘のアンが幽霊がいると言い出し、誰もいないのに物音がしたり話し声が聞こえたりし始めた。
グレースはそれを心配して神父を呼ぼうと思って外に出るが、濃い霧が視界を邪魔して歩けない。ふと前の方を見るとそこには出兵していたはずの夫の姿があった。二人は一緒に屋敷に戻ることにしたが、次の日になると夫の姿はもうなくて、何故かいつの間にかカーテンが全て取り払われているではないか。
親子3人はパニックになるが、どういうことか子供達に光アレルギーは出なかった。
そしてその後彼らは、突然現れた幽霊が誰なのかを知ることとなるのであった。
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最後のグレースの表情は哀しくなりました。
自分の状況を理解したのか、それともわからないままだったのか。
平和ではなかったその頃のイギリスで、出兵した夫を待ち続けて必死で親子3人で生きていたのでしょう。
夫が帰ってきた時に恥ずかしくないように教育もちゃんとしてしつけも厳しくしていたグレースでした。
なんだかこの親子達を脅かした幽霊達が、土足で踏み込んできたようにしか感じませんでしたが、まぁそこは仕方のないことなんでしょうね。
この映画を見た時は、何の情報も知らないまま先入観がありませんでしたのでわたくしにとってこのラストは衝撃的でした。
監督のアレハンドロさんは「オープン・ユア・アイズ」で東京国際映画祭グランプリを受賞した才能あふれる監督です。
それに魅了されたトム・クルーズがこの映画の製作総指揮を務めています。
主演は元奥さんの(当時は「現」ですが)ニコールだし、相当入れ込んでいたようです。
わたくしも好きですね、この映画。
『サイコ』
1960年、アルフレッド・ヒッチコック監督作品。
【キャスト】
アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー、ヴェラ・マイルズ他
【あらすじ】
不動産会社のOLマリオンは恋人のサムと経済的な理由で結婚できずにいた。
ある日、彼女は会社の金を持ったままサムのところへ持っていこうとし、その途中、ベイツという小さなモーテルに寄ることにした。そこは青年ノーマンが経営していて、自分の住む家もモーテルのすぐ近くにあるということだった。
応接室でノーマンと話をしながら食事をし、部屋に戻ってシャワーを浴びている時にマリオンは何者かに刃物で惨殺されてしまう。
ノーマンは彼女の死体を見つけるとシャワー室を片付け、彼女の乗っていた車も沼に始末した。
マリオンの姉のライラや私立探偵がベイツモーテルを尋ね、マリオンの行方を聞くがノーマンは知らないと言う。
ノーマンはいったい何を隠しているのか、誰がマリオンを殺したのか、ライラが秘密を知った時、ノーマンの正体が明らかになるのだった。
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誰もが知っている「サイコ」。
シャワーシーンはあまりにも有名ですね。
あの、キンキンキンキンという金属の響くような音はもう何かが来る予感をさせる定番の音となりました。
マリオンが倒れた時の目のアップは相当気持ち悪いです。
モノクロの映画は、あのノーマンの住む家の形から心底恐ろしい場所に見えますし、ノーマンの心の闇を反映させるのにピッタリだと思います。
この映画の予告編ですが、ヒッチコック本人がベイツモーテルや事件の概要を説明するものが動画サイトにあがっていました。「2度目の殺人事件が起きたのは階段の上でした」 とか、説明しながら歩き回っています。面白いのでぜひ探してみて下さい。
「サイコ」と言えば、アンソニー・パーキンスですが、サイコシリーズの4までありますが、全て出演していますね。きっと彼はこの映画が大好きだったんでしょうね。
彼は1992年にエイズで亡くなっています。もしかしたらまだ続きに出たかったのではないでしょうか。
さいごに
サスペンス映画は、事件や犯人を追うだけではなくて人の深層心理や精神世界をも覗かせてくれます。
どんなに明るい人でも心の闇を持っています。そういう人の方が闇の色は濃かったりするものです。
サスペンス映画でしか見られない、人の心の中を楽しんじゃいましょう。
どんでん返しサスペンスもいかが?
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